九州大学医学研究院・病態機能内科学(第二内科)は、生活習慣病(高血圧・糖尿病)とそれらを基礎疾患として発生する心血管病(脳・心・腎)、ならびに,消化器系疾患の診療と研究を専門とする複数のグループからなる大講座で、我々脳循環研究室はその一つとして存在しています。第二内科には、伝統的に頻度の高い疾患を診療・研究し,社会貢献するという理念があり、脳卒中学が学問として確立するはるか以前より「科」として日本人に多い脳血管障害の臨床・疫学に関わってきたという歴史があります。

 

 

ただ、CTもなく脳梗塞か脳出血かの診断も困難で、まして脳梗塞病型診断の概念もなかった昭和の脳卒中診療では、単に寝かせておくか、手術をする以外に治療法はなく、脳外科医のみに診療を任せてきたといっても過言ではありません。今もまだその流れをくみ、全国的にみると脳血管障害の診療を脳外科医のみが行っている地域が少なくありません。しかしながら、近年の脳卒中診療は昭和のそれとはもはや全く異なります。梗塞か出血はCTで容易に鑑別がつき、どのような機序で脳梗塞が生じてきたかを迅速に診断し、それに合わせた的確な治療が必要になります。急性期に必要な治療は、止血・血栓管理、輸液管理、血圧・血糖・脂質管理、呼吸・循環管理、合併症の管理など、ほとんどは内科的なものなのです。さらに、急性期を過ぎた後も、内科的な視点に立って、再発予防管理やリハビリ治療を継続していくことが不可欠であるといえます。

 

 

今となってはもはやあたり前となったこの事実にいち早く気づき、昭和47年、山口武典先生(昭和35年卒、写真左)、故・藤島正敏先生(昭和36年卒、写真右)らが中心となって、生活習慣病の診療を得意とする第二内科の中に、脳血管障害の内科診療と研究を専門とする新たな枠組みを確立されました。九州大学第二内科の脳循環研究室は日本における内科・脳卒中診療の草分け的存在であります。

 

脳血管障害は、脳の血管がつまるか破れるか、極めて単純な疾患であり、また、一度発症すると治らないという固定観念から、極めて頻度の高い疾患でありながら、学問的にも臨床的にもこれまで軽視される傾向にありました。しかし、その診療の多くを内科的な発想のもとに行うべきであるという事実に加え、今まさに脳卒中診療において大きなパラダイムシフトが起きています。MRIや超音波検査を中心とした急速な画像診断学の発達、新たな血栓溶解剤(tPA)の承認・脳梗塞発症予防薬の開発、脳血管内カテーテル治療機器の新規開発と内科医への門戸開放、さらには、再生医療の可能性までもが模索され、リハビリテーション治療も大きな進歩を遂げています。

我々の使命の一つは、急速に進歩し多方面にわたる知識が必要となった脳卒中診療の各領域一つ一つにおいて、真のプロフェッショナルを継続的に育成し、組織として医療レベルの底上げを行っていくことにあると考えます。その一方で、高齢化が進む地域では、脳血管障害を有する寝たきり患者・認知症患者が増加の一途をたどっています。しかしながら、地域において、脳血管障害の臨床に真に精通した医師の数がまだまだ不足しているのが現状です。脳血管障害は、がんと違って発症予防が可能な病気です。地域における脳血管障害発症予防の啓発に努めるとともに、地域で活躍できる医師の育成に努め社会貢献を行っていくことこそが、我々のもう一つの重要な使命だと考えています。

 

 

日本における内科・脳卒中診療の草分け的存在である九州大学第二内科脳循環研究室は、これからも日本の脳卒中診療と研究をリードすべく、また脳血管障害で苦しむ多くの患者さんのためにも、グループ一丸となって日々精進を続けていく所存です。