共通の診断基準や治療方針のもとに専門医療を提供できる脳卒中専門医を揃えた福岡県の7施設による多施設共同脳卒中データベース(Fukuoka Stroke Registry; FSR)を構築しています。このデータベースを用いて急性期脳卒中患者の発症登録による病態分析と病因解明を行うとともに、治療成果の評価につながる研究を行い、我が国における脳卒中医療の基盤となるエビデンスを構築することを目的としています。

 

データベースは、既存資料を用いた後向きの疫学研究と新規症例登録による前向き疫学研究の2つで構成されています。前向き疫学研究は、連結可能匿名化されています。入院中に採血を行い、ゲノムや血漿を用いて遺伝子解析研究や蛋白分析研究を行います。また、電話による予後調査を行っています。前向き疫学研究は、2013年3月末日現在、7500名を超える脳卒中患者が登録され、同意取得率は89%、追跡率は95%に及んでいます。

福岡脳卒中データベース研究のホームページ >>http://www.fukuoka-stroke.net/

 

2008年以降、研究結果については、学会発表(国内学会128、国際学会21)や論文発表(和文3、英文13、その他投稿中)を行っています。

 

■ 脳卒中発症に関わる研究 
脳卒中は、生活習慣病などによる動脈硬化を基盤として発症することが多く、高血圧や脂質異常、糖尿病、心房細動などが危険因子として知られています。こうした環境因子のみならず、遺伝要因の関与も示唆されていることから、脳梗塞関連遺伝子多型の研究が行われています。
脳梗塞患者と性、年齢を一致させた久山町住民健常者を対象として行った、ゲノムワイドスクリーニングによる脳梗塞関連遺伝子の解析結果から、PRKCH遺伝子とAGTRL1遺伝子が脳梗塞の遺伝的危険因子として報告されています(Kubo et al. Nat Genet. 2007, Hata et al. Hum Mol Genet 2007)。その一方で、欧州で発症危険因子とされたPDE4D遺伝子は脳梗塞発症との関連はなく(Matsushita et al. Stroke 2009)、SORBS1遺伝子、LTA遺伝子も脳梗塞発症との関連を認めませんでした(Hagiwara et al. Eur J Neurol 2008, Hagiwara et al. Cerebrovasc Dis 2008)。
また、近年、黄砂による心血管疾患の発症への関与が指摘されています。我々は黄砂観測日における脳梗塞発症患者とその患者の推定黄砂曝露量をもとに、ケースクロスオーバーデザインを用いて解析しました。その結果、アテローム血栓性脳梗塞では気温や湿度による調整を行っても、黄砂曝露により有意に発症が増加することが明らかとなりました。そのメカニズムは未だ明らかではありませんが、一因として大気汚染物質により炎症反応や凝固系の亢進が惹起されることが考えられています(Kamouchi et al. Stroke 2012)。
■ 脳卒中急性期病態に関わる研究 
発症の危険因子である、高血圧や糖尿病、脂質異常が急性期の病態にどのように関わっているか研究しています。
糖尿病患者では、発症前の血糖管理が急性期病態に及ぼす影響について検討しました。その結果、発症時のHbA1c高値例では、神経症状の改善に乏しくな り、神経症状の増悪例や予後不良例が増加しました。HbA1c値が高いほど脳梗塞急性期の予後が悪い例が多く、発症前の高血糖は、急性期の機能予後の不良 因子であることが明らかとなりました(Kamouchi et al. Stroke 2011)。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)もまた心血管病の独立した発症危険因子であり、予後不良因子といわれています。我々はCKDが脳梗塞の急性期病態に及ぼす影響に ついて解析しました。タンパク尿は、入院中の症状増悪、退院時の死亡、退院時の機能予後不良と有意に関係していたことから、急性期脳梗塞の病態において、 タンパク尿が独立した予後不良因子であることが明らかとなりました(Kumai et al. Neurology 2012)。
■ 脳卒中の再発と予後に関わる研究 
脳梗塞は急性期における治療だけではなく、再発をいかに予防するかが重要です。我々は1年後の脳梗塞再発を予見しうる再発リスクスコアについて検討しまし た。単変量および多変量解析の結果から、最終的なモデルの因子として、年齢、高血圧、糖尿病、喫煙、心房細動、心疾患、慢性腎臓病、非ラクナ梗塞、脳梗塞 の既往を選択し、この再発リスクスコアを、福岡脳卒中リスクスコア(Fukuoka Stroke Risk Score for Japanese: FSRJ)と名付けました。低リスク群(3点以下)、中等度リスク群(4-5点)、高リスク群(6点以上)の3群に分類したところ、1年後の再発率は、脳 梗塞全体では、低リスク群で2.93%、中等度リスク群で5.83%、高リスク群では7.96%であり、リスクスコアの上昇に伴い、再発率も上昇していま した。また、カプランマイヤー曲線でもログランクテストで有意に生存率に差がみられ、この再発リスクスコアは本邦における再発の予見に有用である可能性が 示唆されました(Kamouchi M, et al. Cerebrovasc Dis. 2012)。
 ■ 脳梗塞のバイオマーカーに関する探索、解析研究 
(Research for Biomarkers for ischemic Stroke)
脳梗塞の診断に有用なバイオマーカーは現時点で確立していません。我々は、脳梗塞の診断、病型診断に有用なマーカー、予後の予測に有用なマーカーを探索、解析するための研究を行っています。